オルゴールが奏でる平和の音色を、次世代へ届けていきたい
(令和6年2月取材)
1.事業内容
日本一の生産数を誇る木製オルゴール
東洋音響は、日本国内ではごくわずかになりました木製オルゴールの製造を専門とする会社で、生産数は日本一を誇っています。1987年に社長である杉山怜が創業し、当初はオルゴールのムーブメント(機械部分)だけを製造していましたが、次第に木工技術を取り入れた商品を作るようになりました。静岡県は駿河指物をはじめ小物や家具などの木工製品づくりが盛んで、弊社でも木箱入りオルゴールを製造する際はそのような木工職人に依頼していましたから、品質の高さには定評がありました。しかし、時代と共に職人たちの高齢化と後継者不足に悩まされるようになり、取引先からの要望を機に弊社にて完成までを手掛けるようになったのです。 現在では「ゆめの木」という自社ブランドを立ち上げ、開発・デザインから塗装仕上げに至るまで一貫生産の体制を整え、弊社ならではの価値ある商品づくりにこだわっています。 |
2.強み
繊細な形と動きを生み出す職人の技
弊社の人気商品であるからくりオルゴールは、ムーブメントの動きの特性を活かしたもので、オルゴールの音を出す部分の動力で人形を動かしています。人形がくるくる回るといった単一の動きをするものはよくありますが、2つの人形が同時にそれぞれ違った動きをするような複雑なからくりオルゴールは、長年ムーブメントの製造に携わり、技術を培ってきたからこそ作れる商品です。
これを生み出したのは弊社の製造部長で、刳物※職人としての技術や経験を活かし、さまざまな商品を考案しています。弊社には高い技術や豊富な経験をもつ職人たちがおり、完成品の姿や音を出す動力から、からくりを動かす仕組みなど、イメージを共有して作り上げることができるため、アイディアをすぐに形にして商品化することが可能です。
これを生み出したのは弊社の製造部長で、刳物※職人としての技術や経験を活かし、さまざまな商品を考案しています。弊社には高い技術や豊富な経験をもつ職人たちがおり、完成品の姿や音を出す動力から、からくりを動かす仕組みなど、イメージを共有して作り上げることができるため、アイディアをすぐに形にして商品化することが可能です。
※刳物(くりもの):ノミや刀などの道具を用い、手で木をくりぬき、形を削り出して作った器具
お客様から信頼される確かな品質
弊社のオルゴールは、一台一台職人が手作りしています。その品質はお客様から高い信頼を得て、全国のオルゴールミュージアムへ納品しているほか、卒業の記念品として年間400校程の学校から注文をいただいています。また一流メーカーのOEM生産や、企業のノベルティなどオーダーメイドも承っており、最近では土佐組子や会津塗りといった伝統工芸とコラボレーションしたオルゴールも製作しています。 |
3.課題と解決のきっかけ ~メインバンクと静岡県信用保証協会との連携~
事業承継により見えてきた課題の数々
現在は経営体制も業績も安定していますが、数年前までは大変厳しい状況にありました。コロナ禍で売上が低迷していた時期、社長が高齢ということもあり専務の私が後継者となり、社長の長女が現場担当役員、社長の次女である私の妻が経理を担うことになりました。それまではすべて社長が管理し、経理は前任の担当者と税理士が行っていたため、私たちは経営状態についてまったく把握しておらず、経理についても無知でした。ただ、当時仕事は毎日忙しく、経営は順調だと思っていたのです。ところが実は深刻な赤字で、いくつもの課題を抱えていると知り、愕然としました。今後の経営と資金繰りについて悩んでいた時、静清信用金庫と信用保証協会の担当者が来訪しました。信用保証協会は「オルゴールは平和産業だ」という社長の言葉に共感したと話し、日本のオルゴール文化を守るためにぜひ支援をしたいと言ってくれたのです。
4.静岡県信用保証協会の経営支援内容
経営陣と社員が一丸となり、改善に取り組む
その時にいただいた冊子には、さまざまな経営支援の事例が紹介されており、弊社と似たような中小企業がいくつもあると知って、とても励まされました。そこで専門家派遣制度の活用を決め、私と現場担当役員・経理担当の3人が中心となり、全社員で一緒に講座を受けることになりました。また、経理は静清信用金庫の支店長からマンツーマンでご指導いただきました。 専門家からは、まず1時間あたりの社内コストであるチャージを計算するよう指導がありました。加えて社員たちと協力して、全商品の作業時間を工程ごとにカウントし、原価計算表にまとめて全員で共有しました。これをもとに商品価格を改定し、特注品などの見積額を明確化することで、きちんと採算が取れるようになりました。さらに社員が利益を意識するようになり、作業効率を上げる体制が生まれ、働き方改革にもつながりました。 また社員を班分けし、それぞれ専門家からの課題や目標に取り組んで、朝礼でその成果を発表してもらいました。これは社員たちに緊張感を与え、自分たちの仕事に向き合ってもらう良い機会となりました。 | 写真左から現場担当役員、加福専務、経理担当 |
台風被害を受けるも取組の成果で黒字転換
これまで弊社の仕事は下請けという意識が強かったのですが「オンリーワンの商品を作るメーカーである」という自信が高まったことから、社員たちの仕事に対する姿勢も変わり、生産性も上がってきました。ところが2022年9月、台風15号により甚大な被害を受けました。工場の床上50㎝まで水が入り、機械や備品、発送準備をしていた商品も水に浸かってしまったのです。幸いにも取引先の協力もあり、お客様への納品は遅延なく対応することができました。金銭的な部分は、静清信用金庫や信用保証協会の協力で災害対策資金を活用することで損失のカバーもできました。
このようなことがあったため、決算は大変厳しいものになると覚悟していましたが、これまでの取組の成果で利益率が大きく改善しており、最終的にわずかながらも黒字を計上することができました。
5.伴走支援でのフォロー ~静岡県信用保証協会による将来を見据えたサポート~
事業をさらに継続していくため、資本を強化
決算の結果を受け、信用保証協会から将来にわたって事業継続を安定させていくため、日本政策金融公庫の資本性劣後ローンの活用を提案されました。経営支援によって業績は回復してきましたし、長い目で見て有効であると考えて導入を決めました。しかし、弊社だけでの申請には不安がありましたので、信用保証協会に事業計画書の策定支援や日本政策金融公庫との折衝への同席など、全面的にサポートをお願いしました。おかげで審査は無事通り、資金繰りに対する不安も解消されて仕事に集中できるようになりました。
自分たちの仕事の価値を見直し、高めるチャンスをもらった
実は初め、信用保証協会は遠い存在だと思っていました。しかし、弊社のような小さな会社にも注目し、仕事を認めてもらえたことはとても嬉しかったですし、専門家や静清信用金庫、信用保証協会の先を見据えたアドバイスには、本当に助けられました。経営支援によって、自分たちの仕事の価値を見直し、高める機会を得られたと感じています。
今後は静岡の伝統工芸である駿河塗りのオルゴール製作や、木工品の製作にも挑戦したいと考えています。これからも、お客様にご満足いただける商品を作り続けていきます。
今後は静岡の伝統工芸である駿河塗りのオルゴール製作や、木工品の製作にも挑戦したいと考えています。これからも、お客様にご満足いただける商品を作り続けていきます。
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信用保証協会のサポート (有限会社東洋音響の場合)
- 2021年5月
静清信用金庫とともに訪問。専門家派遣による経営改善の取組を提案 - 2021年10月-2022年6月
信用保証協会の経営改善診断制度を利用(全5回) - 2022年9月
台風15号により浸水被害を受ける - 2023年3月
台風被害による金銭的損失に対応するため、災害対策資金を実行
- 2023年8月
中長期的な事業継続の安定性を確保するために、日本政策金融公庫の資本性劣後ローン導入を提案
事業計画書については協会職員が策定支援を行い、日本政策金融公庫との折衝にも同席
- 2023年10月
信用保証協会のワンポイント診断制度(全3回)と経営改善計画書策定支援制度を利用し、事業計画を策定
- 2023年12月
日本政策金融公庫の資本性劣後ローン実行
信用保証協会 担当者からの一言
小規模ながら国内でも数少ない業態であり、社長の「オルゴール作りは平和産業である」との考えにも共感したことで、このようなビジネスを未来に残していくことが当協会や地域金融機関の役目であるとの思いを抱き、コロナ禍当初から4年にわたりメインバンクと一緒にお手伝いをしてきました。 日本政策金融公庫に資本性劣後ローンを実行いただいたことで、当社のビジネスの重要性や前向きな取組姿勢を評価いただけたことも、お手伝いする立場としては非常に喜ばしいことでした。 私たちはあくまで背中を押しただけで、経営陣や社員の皆さまが一丸となって自主的に改善に取り組んだことが、一番の成功要因です。今後も継続的に利益確保し、将来にわたって平和の音色であるオルゴールを響かせてもらいたいと思います。 |
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