経営発展への連携支援を受けて
~歴史ある鋳造技術を、未来へ向けて継承・発展させていくために~
1.事業内容
県内でも希少な、手込め鋳造を行う鋳造所
弊社は創業60年以上にわたって銑鉄鋳物製造を行う鋳造所で、FC材(ねずみ鋳鉄)とFCD材(ダクタイル鋳鉄)で建設機械や木工機械などの部品を製造しています。鋳造は鉄や銅などの金属を熱で溶かし、型に流し込んで冷やし固める加工法です。その起源は古く、日本では古代、貨幣や鐘などの製造にも用いられた歴史ある技術です。鋳造にはさまざまな種類があり、弊社が行う「砂型手込め造形」は職人がすべて手作業にて砂型を作成するもので、これを専門に行う鋳造所は旧静岡市内では唯一、弊社だけです。機械による大量生産とは異なり、手で一つひとつ製作するため、5kg程度の小さなものから1tを超える大きなものまで、多品種少量生産に対応できます。 |
2.強み
わずかな変化にも左右される「鋳物は生き物」
鋳物を作るにはまず図面をもとに木型を作り、それを用いて砂で作った「鋳型」へと溶けた鉄を流し込み、12~24時間かけてゆっくりと冷却して型から外します。表面の砂を清掃し、バリなどの不要な部分を除去した後に検査を行い、注文に応じて塗装をして完成となります。「鋳物は生き物」と言われるように、天候や気温のわずかな変化にも影響され、同じように作ってもなかなか同じ仕上がりにはなりません。鋳物は内部に「巣」、つまり内部に小さな空洞が発生しやすく、冷却の速度も一点一点異なりますから、それらをすべて計算に入れて行わなければならないのです。例えば、鉄を溶かす電気炉内の温度は約1,500℃になりますが、夏と冬とでは30℃程度変えており、さらにその日の天候・気温に合わせて微調整します。また、厚みのあるものを作る場合は、湯(業界用語で溶けた鉄のこと)の温度が高いと均一に固まらず、結晶が大きくなってしまうため温度を低めにし、薄いものは固まりやすいため湯の温度を高めにします。もちろん、鉄を流し込む際にかかる鋳込み時間も計測して、調整しています。
厳格な規格にも応える、確かな製造技術
このように弊社では手込め鋳造を行い、職人たちが培ってきたノウハウを活かすことで、さまざまな形状にも対応しています。注文も一個から受け付けており、お客様のあらゆる要望にも応えられる、確かな品質を保証する製品づくりに取り組んでいます。 製品には高い精度と品質が求められるため、目に見えない部分にも砂が残っていることがないよう、非常に厳しい水準に基づいて検査しているほか、定期的に引張試験を行っています。工程ごとに一人ひとりが責任を持って厳格に品質管理し、さらに自社で鋳物の15元素の成分管理値を定め、成分分析の検査も実施しています。こうした徹底した管理体制により、大手メーカーからも信頼をいただき、全国のお客様と取引させていただいています。 |
3.課題と解決のきっかけ ~商工組合中央金庫と静岡県信用保証協会との連携~
鋳造産業における事業継続の難しさ
鋳造は長年の経験と知識の積み重ねが必要で、技術を習得するまでにかなりの時間を要します。加えて3Kといわれる仕事ですから、若者からは敬遠されがちで、弊社でも従業員の半数は外国人です。また、初期の設備費用がかかるため新規参入が難しく、近年鋳物工場は減少の一途をたどっています。弊社でも、設備に加えて原材料や資材などの費用負担が大きく、鉄以外の原料や資材の9割は外国産であることから、2020年のコロナ禍の時期には中国からの資材が届かず、受注も大幅に減少し、事業継続が困難となってしまいました。そこで、弊社のメインバンクである商工組合中央金庫に相談し、信用保証協会の保証付コロナ資金を利用しました。しかしながら、翌年になっても業況は思うように回復せず、悩んでいたところへ商工組合中央金庫の担当者が、信用保証協会の方を連れて来たのです。それが現在の担当となる方でした。
4.静岡県信用保証協会の経営支援内容
コロナ禍を契機に経営支援を受けることに
実は、それまで信用保証協会の方と直接関わったことがなく、遠い存在のように感じていました。そのため、経営発展に向けた支援をしてもらえると聞いても正直不安でしたし、息子である常務も同様でした。しかし、信用保証協会の担当者はとても親しみやすい方で、弊社の近年の業況や経営課題などについて丁寧にヒアリングを行い、信用保証協会の専門家派遣制度を活用した経営診断を勧めてくれたのです。当時、私と常務の間では十分にコミュニケーションが取れておらず、家族経営の難しさを感じており、彼に対して自分には教えられないことを、誰かに教えてもらいたいと思っていました。また、常務も現状を打破するには、専門知識を持つ外部の方の意見が必要だと考えていたことから、提案を受けることに決めたのです。そこでまずは翌月から4か月かけて、全5回の診断を受けました。奇遇にも、その時担当になった専門家の方が高校の同級生で、これも縁だと感じましたね。毎回信用保証協会の担当者にも立ち会っていただいて、常務とともに、現状の分析と問題点の洗い出しや要因の分析、経営に関する課題の整理を行って、それをもとに課題解決に向けた方策を検討しました。5.経営支援のリレー ~静岡県産業振興財団と静岡県信用保証協会の連携~
専門家派遣を活用。経営課題の明確化と解決へ
毎月サポートに来ていただくようになってから、次第に私たちにも変化が出てきました。次の診断までに行っておく内容を示していただけるので、自分たちがすべきことがよくわかり、これまで忙しいとつい後回しにしていたことも、都度処理するようになりました。そのため、その後も継続できるよう、静岡県産業振興財団の専門家派遣制度を活用し、追加で経営診断を受けました。 経営診断では資金繰り表と個別原価管理表を作成し、経営計画の策定も行って、実行に移していきました。資金繰り表は私が手書きで管理していたものを常務がExcelに作り直すことで、資金繰りの管理状況を共有できるようになり、また個別原価管理表についてはデータを常務が作成・分析し、それをもとにして私が主要な取引先へと価格や生産量の交渉を行うようになり、経営管理の大切さを実感しました。 |
6.伴走支援でのフォロー ~日本政策金融公庫と静岡県信用保証協会との連携~
経営支援が事業見直しのきっかけに
支援を受け始めてから1年半、信用保証協会の担当者は変わらずに毎月訪問を続け、生産効率や不良率の改善など、適宜、専門家と一緒にフォローを入れてくれました。そのおかげで、事業を取り巻く状況が厳しくなる中でも、前期比で増収増益となり、さらにはこれまで取引のなかった日本政策金融公庫から、新たな資金調達も実現できました。信用保証協会の経営支援は、経営管理をはじめ事業の見直しの良い契機となりました。また常務は、自分が作成した個別原価管理表の分析データが専門家の方にも認められたことが自信につながったようで、これまで以上に熱心に仕事に取り組んでいます。引き続き力を合わせて経営計画を実行し、健全な経営に戻して今期はより良い結果を出したいと考えています。
鋳物は数千年の歴史があり、時代とともに進化を続けてきた、人々の生活とも密接に関わるものです。未来に向けても必要とされるこの技術をさらに発展させ、守っていきたいと思います。
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信用保証協会のサポート (株式会社栗田合金鋳造所の場合)
- 2021年6月
当社を初訪問し、ヒアリングを実施。
課題解決・業況回復を目指し、信用保証協会の専門家派遣制度の活用を提案 - 2021年7月-10月
信用保証協会の専門家派遣制度を実施(経営診断5回) - 2021年11月-2022年1月
静岡県産業振興財団の専門家派遣制度を実施 1回目
(経営診断5回/信用保証協会の担当者も全回同行) - 2022年2月
信用保証協会の専門家派遣制度を活用し、新たな経営計画を策定
計画発表会を実施 - 2022年5月
信用保証協会の専門家派遣制度を活用した、フォローアップ診断を実施 1回目 - 2022年6月-10月
静岡県産業振興財団の専門家派遣制度を実施 2回目
(経営診断5回/信用保証協会の担当者も全回同行) - 2022年10月-11月
商工組合中央金庫と日本政策金融公庫からプロパーコロナ資金を調達 - 2022年11月
信用保証協会の専門家派遣制度を活用した、フォローアップ診断を実施 2回目
信用保証協会 担当者からの一言
当社を最初に訪問させていただいた時に感じた「厳しい状況を乗り切り何とか会社を変えたい。でもどうすれば良いのか分からない」という社長と常務のくすぶった思いに触れ、当社を全力でサポートしたいと思いました。 支援の過程では、厳しい意見をぶつけ合うこともありましたが、最終的には専門家派遣を通じた「個別原価管理表」等の作成や、日本政策金融公庫との新規取引開始など、事業面と金融面の双方からサポートさせていただきました。 その中でも、常務が分析した個別原価のデータを基に社長が値上げ交渉をし、課題の一つとなっていた意思疎通が改善されたことを機に業績が回復していく時間を共有できたことは担当者として冥利に尽きます。 支援開始から短期間でここまで経営改善が進んだのは、社長と常務が真摯に取り組んだ証だと思います。今後もこの取り組みを継続し、さらに業績が向上することを期待しています。 |
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